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「たおさんの『植物日和』〜From NewYork〜」 -2008spring

NYに在住のたおさんこと小幡有樹子さんから、春・夏・秋・冬と4回にわたって、季節折々の自然や植物の話題と石けん作りについてお届けしていきます。
 
4月に入り、ニューヨークもようやく春らしくなってきました。ポカポカした日差しはふんわりと暖かく、日向ぼっこをしながら目をつぶると、まるでブランケットに包まれているかのよう。その気持ちのよさに、ついウトウトとしてしまいます。
近所の庭先でスイセンやチューリップ、モクレンが花を咲かせたのを見ると春がやってきたなあと感じます。しかし、私にとって、春の訪れを知らせてくれるもうひとつの大切な花があります。それは常夏の花、蘭です。
欄の花
春先に蘭というのも変に思われるかもしれませんが、3月から4月にかけてはニューヨーク植物園で「The Orchid Show」という蘭展が行われ、毎年欠かさず見に行っているのです。白、ピンク、紫、緑、黄色など色とりどりの美しい蘭の花々を鑑賞し、その美しさにため息をついてはデジカメで写真を撮るのが春の年中行事となっています。
The Orchid Show 実は私はもともと蘭の花があまり好きではありませんでした。どちらかというと苦手な方だったのです。蘭の花は気品があり優美かつ妖艶。とても特別な花であることは理解していましたが、それと同時に何やらなまめかしく、花である以上に「生き物」という雰囲気がして、少し気味の悪い感じがしたのです。
しかし蘭展で数々の蘭の花を見て、その植物についての知識を得るようになると、蘭の持つ不思議な魅力にどんどん引き込まれるようになりました。

例えば、他の花には見られない風変わりな花の構造にも理由があることがわかりました。
蘭は8000万年以上前に現れ、進化の過程で花のパーツがそれぞれ分化されていったのだとか。その進化は、花びらの模様から香りや蜜にいたるまで、すべて受粉者である1種類の限定された昆虫を引き寄せるためのもの。蘭の花は受粉する昆虫がぴったりと中におさまるような大きさや形になっているのだそうです。その土地により受粉者の昆虫は違うのでしょうが、どの土地であれ、蘭はひとつの虫に決めたらすべてを捧げ、その虫の気を引くためだけに姿を作り上げているのです。なんと一途で献身的なんでしょう!

蘭の花蘭の花蘭の花

苦手だった蘭の花を見に行くきっかけとなったのは、バニラが蘭と仲間だと知り、ぜひバニラの花を見てみたい、生の花の香りをかいでみたいと思ったからです。しかし期待とは裏腹に、展覧会にバニラの花はありませんでした。なぜバニラの花がなかったのか。それは会場で行われていたバニラに関するレクチャーにあとから参加して、初めてわかりました。バニラの花は受粉されないと、たった1日で花が枯れてしまうのだそうです。ですから栽培をしていない限り、その花をおがめるのは非常に難しいということですね。

今年のバニラのレクチャーでは、とても興味深いバニラの歴史について触れていました。
ヨーロッパからの探検家たちが、1500年代にバニラの原産地である(現在の)メキシコに訪れたことをきっかけに、バニラは西洋社会にその存在を知られるようになりました。バニラビーンズの香りに魅せられたヨーロッパ人たちは、苗をヨーロッパ本国や植民地に持って行き、バニラの栽培を試みますが、バニラが実をつけることはなかったそうです。
なんとか根がつき、ようやく花が咲いても決して実をつけることのないバニラに、ヨーロッパの植物関係者はかなり困惑していたことでしょう。
そして1800年代になり、ベルギーの植物学者がようやくその謎を解きました。
バニラの花
バニラの花はある1種類の特定の蜂によってしか受粉ができず、その蜂はメキシコにしか存在しないということを。肝心の受粉者がいないのでは実がなるはずもありません。バニラの魅力に出会ってから数百年、ようやくそのことに気付いたのです。
現在のバニラ農園では手作業による受粉が行われているそうですが、その方法が発見されたのは1841年のこと。しかも発見者は12歳の少年です。インド洋西部に浮かぶ島レユニオンの農園で奴隷の息子として生まれた少年が、小枝か何かでバニラの花をつついて遊んでいるときに、偶然に受粉に成功したのだとか。その発見をきっかけに、レユニオンはバニラの主要な生産地となったそうです。

オーキッドショーが開催されている期間は、ギフトショップで蘭の販売をしています。馴染みのあるカトレアから珍しいミニ蘭まで、様々な蘭が素敵な鉢に入れられディスプレイされ、また初心者でも蘭を上手に育てられるよう、蘭の育て方のデモンストレーションや質問コーナーも併設されているため、多くの来訪者が蘭を買って帰ります。私もひとつ買ってみたいなと思うのですが、結局いつも何も買わずじまい。というのは、蘭のことを知れば知るほどその一途な気質が気にかかり、花を育てるという以前に、心を持つ生き物を扱うような重みがのしかかってしまうからです。蘭の花の美しさは、その植物を取り巻く生態系が作り上げたもの。生まれ育った土地でこそ最も美しく咲き誇るのではないかと思うからです。
だからこそ、花を買ってアパートに飾るのではなく、いつかその土地に行って、蘭の花の咲く風景を見てみたいと思っています。
蘭の花

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【連載しています】 http://www.ci-kyokai.jp/
月刊マクロビオティック「ニューヨークでのマクロビオティック暮らし」

【たおさんの情報】 http://taosoaplog.blogspot.com/
Tao's Soaplog (ブログ)


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